不定冠詞と定冠詞の数は多いが英語よりはるかに論理的
さて、ここで冠詞の説明です。
英語の場合、冠詞には大きな区別がありました。不定冠詞と定冠詞。前者が a(an) で、後者が the ですね。a(an) が示すのは、ただの数字の1(1個)ということではなくて、「なんでもいい、これと定めることのできない(だから「不定」の)、あるひとつの名詞」を指示しています。これが不定冠詞です。
これに対して、それと定まった名詞に付くのが定冠詞。つまり、a man は、誰でもかまわない誰か「ひとりの男」ですが、the man は、話をしている人同士で「あの男」と分かる決まった人間です。
で、フランス語には、この不定冠詞と定冠詞に、それぞれ単数と複数を表す形があるのです。
つまり、まず不定冠詞と定冠詞という2種類の冠詞があり、それぞれに男性形と女性形という2種類があり、さらに、そのそれぞれに単数と複数という2種類があるのです。ですから、単純計算で、2×2×2、都合8種類の異なった不定冠詞と定冠詞があることになります。
でも、じつは、不定冠詞の複数形と定冠詞の複数形に男性・女性の区別はないので、じっさいは6種類です。詳しいことは、これからやりましょう。
この冠詞の使い方は、一見、面倒に見えるかもしれません。しかし、フランス語はこの論理的なシステムのうえに構築されています。ですから、最初は面倒な規則と思うかもしれませんが、一度システムを吞みこんでしまえば、あとはその機械的な適用でやっていくことができます。
冠詞についていえば、原則として、すべての名詞に冠詞が付きます。
ですから、英語のように、冠詞が付くか、無冠詞になるかで悩む必要はぜんぜんないのです。
また、英語の場合、不定冠詞の a(an) はあるけれど、「なんでもかまわないから、いくつかのもの」を指示する不定冠詞の複数形はありません。八百屋さんで、「なんでもかまわないから、いくつかのリンゴ」をくださいというときに、その複数のリンゴを指す不定冠詞がないのです。そこで some という形容詞に助けを借りることになるわけです。英語は冠詞のシステムがじつにいい加減なのです。
でも、フランス語なら、「なんでもいいから、いくつかの」という、定まらない(不定の)複数名詞を指示するための冠詞の複数形があります。きちんとした、論理的なシステムになっているのです。
要するに、冠詞とは、すべての名詞を、未知の(定まらない)ものか、既知の(定まった)ものか、また、単数なのか、複数なのかを区別するための道具です。それによって、この混沌とした世界を分かりやすく区分するためのシステムなのです。
英語では中途半端なために理解しにくいその冠詞の機能とシステムが、フランス語ではいつも完全に規則的に適用されます。だから、原則として、すべての名詞には冠詞が付いて、まだ定まっていないものか、すでに定まったものか、分かるようになっています。
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