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上野千鶴子×國分功一郎対談「上野先生、民主主義はお好きですか?」

2014.01.31 公開 ポスト

第1回

民主主義についてよく語られる時代は民主主義危機の時代上野千鶴子/國分功一郎

   向こう3年国政選挙はないから、政治状況も当面は大きな変動なし――と言われますが、地方では確実に風が吹いています。米軍基地の移設反対を訴える現職が当選した名護市長選。福島での現職落選が相次ぐなか、脱原発の姿勢を明確に打ち出した現職が当選した南相馬市長選。そして2月9日、首都東京が知事選を迎えます。

 こんなときだからこそ、民主主義についてあらためて考えてみませんか?

 國分功一郎さんの『来るべき民主主義』(幻冬舎新書)の刊行を記念し、池袋コミュニティカレッジで行われた上野千鶴子さんとのトークイベントの記録を短期集中掲載します。時は昨年12月4日、特定秘密保護法案の参議院採決を控え、反対する市民が多数国会に駆けつけていた夜のこと。「今まさに日本の民主主義が問われている」――会場にそんな緊張感が漂うなか、日本を代表する社会学者と哲学界のホープの対談は、ときに笑いをまじえて楽しく、かつスリリングに始まりました。

 

◆民主主義についてよく語られる時代は……

上野 私、國分さんとは初対面なんです。國分さんは1974年生まれの団塊ジュニア。つまり彼の親御さんが私と同じ団塊世代。あのとき私も、トチ狂って誰かと結婚していたら、このぐらいの年齢の息子がいても不思議はないと思うと、思わず「功ちゃん」とか言いたくなる(笑)。國分さんの生まれた1970年代って、みんな避妊が下手でさあ(会場、笑)、ボコボコ子どもを産んでたのよね。でもその中から、こんな優れた方がお育ちになって何よりだと思います。

   國分さんがこのたび『来るべき民主主義』という本をお出しになりました。このところ國分さんに限らずいろんな人たちが、民主主義についての本を次々と出しています。「大道廃れて仁義あり」というとおり、民主主義についてよく語られるのは、民主主義がろくでもないことになっている時代です。だからあまりありがたいことではないんですけどね。

   そのなかで、國分さんは哲学者でありながら――哲学者っていうのは、だいたい机上の空論を言う人だっていうことになってるんだけど――行動をする哲学者で、しかも闘う哲学者。この本を読めばわかりますが、小平市の道路建設問題で、実際にご自身が市民として闘っている人です。この本はその経験にもとづいて書かれているので、非常にリアリティがある。ほとんど社会学者じゃないかっていうくらい。これは褒め言葉なんですけどね(笑)。というわけで、私は大変面白く読ませていただきました。

   最初に、なぜ小平市では突然市民が望んでもいない道路をつくることになっちゃったのか、それでなぜ住民投票をやることになったのか、簡単にご説明いただけますか?

撮影:岩沢蘭

國分 はい。僕は東京の小平市の西武国分寺線・鷹の台という駅のそばに住んでいるんですが、その西武国分寺線の短い線路の近くに道路をつくろうという計画があることが問題になったんです。

   その道路計画というのは、あのあたりの6市にまたがって南北に走る都道をつくろうというものですが、もともとの計画は今からちょうど50年も前の1963年につくられたものです。僕らが問題としている1.4キロ部分以外はすでに完成している。にもかかわらず、この部分はずっと計画が凍結されていた。それが10年弱前に突然復活してきて、あれよあれよという間に説明会が開かれたりっていうことになったんです。

   道路が通る予定の場所には、大きな住宅地と雑木林があるのに、それが壊されてしまう。さらに、きれいな玉川上水を突っ切る形で建設される。僕はちょうどその付近に住んでいたこともあって、偶然にこの問題を応援するようになったという次第です。

   この道路建設のどこがおかしいか。住宅地を突っ切るから住民に移転してもらわなければならないとか、住民の憩いの場になっている雑木林の木を切るとか、いろいろ問題はあります。でも常識的に考えたとき、いちばんおかしいのは、すでに真横に府中街道という道路が通っていることです。この府中街道は、かつては大きな渋滞に巻き込まれていたけれど、今は渋滞問題もだんだん解消してきています。だから、わざわざ新しい道路をつくる必要はないじゃないかっていうのが、僕たちの大きな主張でした。

   それで住民投票の実施を求めることになったんですが、そこで何がいちばん問題になったかというと、道路建設に際して行政が住民の声を聞いていないことです。50年前から今に至るまで、住民の意見をまったく聞いてないんですね。僕の出席した説明会では、役所の人が一方的にしゃべるだけで、住民の声を聞こうとしない。象徴的なのは、「質問してもいいです。でも、1人1回です」、さらに「答えに対する再質問はできません」というルールです。要するに対話しないということです。

   だから住民投票の争点としてはその点をいちばん問題にしまして、道路建設に賛成か反対かじゃなくて、住民の意見を入れて道路計画を見直すべきか、見直す必要はないかを問うことにしました。その後の細かい経緯は端折りますが、議会で条例が通って住民投票の実施が決まった後、突然、後出しジャンケン的に「投票率が50%に達しなければ不成立とし開票もしない」という条件をつけられてしまった。投票は5月に行われて結果は投票率35.17%で不成立。開票もされていない、というのが現状です。 

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上野千鶴子×國分功一郎対談「上野先生、民主主義はお好きですか?」

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上野千鶴子

社会学者・立命館大学特別招聘教授・東京大学名誉教授・認定NPO法人ウィメンズアクションネットワーク(WAN)理事長。1948年富山県生まれ。京都大学大学院社会学博士課程修了、平安女学院短期大学助教授、シカゴ大学人類学部客員研究員、京都精華大学助教授、国際日本文化研究センター客員助教授、ボン大学客員教授、コロンビア大学客員教授、メキシコ大学院大学客員教授等を経る。1993年東京大学文学部助教授(社会学)、1995年から2011年3月まで、東京大学大学院人文社会系研究科教授。2011年4月から認定NPO法人ウィメンズアクションネットワーク(WAN)理事長。専門は女性学、ジェンダー研究。『上野千鶴子が文学を社会学する』、『差異の政治学』、『おひとりさまの老後』、『女ぎらい』、『不惑のフェミニズム』、『ケアの社会学』、『女たちのサバイバル作戦』、『上野千鶴子の選憲論』、『発情装置 新版』、『上野千鶴子のサバイバル語録』など著書多数。

國分功一郎

1974年、千葉県生まれ。東京大学大学院総合文化研究科博士課程修了。博士(学術)。東京大学大学院総合文化研究科・教養学部准教授。専門は哲学・現代思想。著書に『スピノザの方法』(みすず書房)、『暇と退屈の倫理学』(朝日出版社、第2回紀伊國屋じんぶん大賞受賞、増補新版:太田出版)、『ドゥルーズの哲学原理』(岩波現代全書)、『来るべき民主主義』(幻冬舎新書)、『近代政治哲学』(ちくま新書)、『中動態の世界』(医学書院、第16回小林秀雄賞受賞)、『原子力時代における哲学』(晶文社)、『はじめてのスピノザ』(講談社現代新書)など。訳書に、ジャック・デリダ『マルクスと息子たち』(岩波書店)、ジル・ドゥルーズ『カントの批判哲学』(ちくま学芸文庫)など。

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