イーベイ誕生。ネットオークションサービスの夜明け
日本のリユース・マーケットは2013年の時点で、年間およそ1・5兆円の規模だといわれ、2013~16年の間、平均9・2%ずつ成長し続けてきた注目の市場である。
2020年には2兆円に達するのではないかと予測されてきたが、2017年時点ですでに1兆9000億円を超え、予想を上回るスピードで成長している。2兆円といえば、ANAホールディングス、武田薬品工業、大林組、九州電力、リコーといった誰もが知る企業の売上高と同じ規模である。
その成長の背景にはC2Cビジネスの発展もある。
ネット上で世界で初めてオークションを展開したのは、1995年のイーベイ(eBay)である。
イーベイは、商品を販売するのではなく、マーチャント(出品者)と購入者を繋げるマーケットプレイスとして、ピエール・オミダイアによって創業された。
ピエール・オミダイアは高校時代にコンピューターに関心をもち、タフツ大学で計算機科学を専攻し卒業後にクラリスへ入社。MacDraw(初期のアップルコンピューター社製Macintoshに同梱されていたグラフィックソフトウェア)の開発に携わった。
その後、1991年に3人の友人とともにインク・デベロップメント(Ink Development)を設立、後にイー・ショップ(eShop)と社名変更されマイクロソフトに買収される。彼は1994年にゼネラル・マジック(General Magic)へ籍を移し、その長期休暇中に、コンピューターコードを書き上げ、試験的に「オークション・ウェブ(Auction Web)」の名称でネットオークションサービスを開始。これがイーベイの起点である。
余談だが、オークション・ウェブの最初の購入者は、カナダ・バンクーバー州ソルト・スプリング・アイランドに住むマーク・フレイザーなる人物である。ピエール・オミダイアがサイトに初めて掲載したアイテムである、壊れたレーザーポインターを購入したのである。フレイザーはきっとこの仕組みを見つけたことと、このサイトの可能性に興奮して購入ボタンをクリックしたに違いない。彼は今でもその壊れたレーザーポインターを持っていると誇らしげに語っている。
1997年9月。オークション・ウェブはイーベイへとサービス名を変更する。その後、ベンチャー・キャピタルの出資を受けるなどして、1年後の1998年9月に株式を公開。莫大な資産を手に入れたピエール・オミダイアは、妻とともに財団を設立。社会に継続的な変化をもたらし世界をより良くする取り組みを続けている。
ここで、ピエール・オミダイアが2014年にアカデミー・オブ・アチーブメントの学生を前に行ったスピーチの概略を紹介しよう。現在の私たちにとっても非常に示唆に富んだ内容だと思う。
「私がイーベイを創設したのは、個人個人が効率的にビジネスをする場を設けたかったためです。イーベイより以前、ウェブサービス事業の、特にeコマース分野の人々は、ただ企業収益を増やそうという目的でより多くの顧客へリーチしようとしていました。私の目的は、一般の人が公平な立場で参加し利益を得られる効率的なマーケットをつくることでした。イーベイが利用したのは、双方向性のあるマスコミュニケーションを可能にしたインターネットの新鮮さです。一部の人々は、イーベイを『人民の人民による人民のためのサービス』と表現しましたが、私が行ったのは個人個人が情熱を発信し、同じ熱意をもつ人とマッチングできるような土台を築き、サービスに招いてビジネスを促しただけです。私が特別何かをしたわけではないのです。ビジネスの未来はイーベイのようなサービスにある、と私は信じています。どんな言語を話していても、どこに住んでいても有益なマーケットに参加できる、唯一の国際トレードコミュニティをつくることが、私のビジョンでした。つまり、消費者が生産者になれるような場です」
これはリユース市場のあり方にも通じる考え方だ。必要なのはリユースにおける公正公明な取り引きが行われることが約束されている「場」づくりだ。
もう一つ、ピエール・オミダイアは大切なことを述べている。それは、世界がインターネットによってすべて変わってしまうのではないということだ。
インターネットが革新的な技術で、今やインフラであることは疑いようのないところだが、その利用者がリアルな人間であることを忘れてはいけない。インターネットは人間の行動や意識に働きかけることはあっても、それだけで人間のもつさまざまな感情や説明できない行動の数々、あるいは所属している国家やコミュニティ、トライブなどで重要視される規範までががらりと変わってしまうわけではない。これからのビジネスにおいても、人を見ることの重要性は変わらないと彼は述べている。
ご存じの方も多いかもしれないが、実は、イーベイは一度、オンラインオークションサイトとして日本に進出している。だが、Yahoo! オークション(現ヤフオク!)との競争の末、2002年にこの分野からの撤退を余儀なくされたという経緯がある。
そして2018年、ファッションや化粧品、食品、家電、雑貨、日用品、チケットなどを販売している総合ECサイト「キューテン(Qoo10)」を運営するジオシス社の日本事業を買収する形で日本に再進出した。
だが、日本国内のECサイトとして競争していこうというよりは、日本国内から海外への販路を求める企業を主要ターゲットとして海外進出支援(越境EC)に力を入れている。日本企業はイーベイ・ジャパンのサポートを得て、世界中に展開するイーベイのプラットフォームで商品を海外に販売できるわけだ。
イーベイを通じて世界と繋がっていく世界観。それは、「ウリドキ」というC2Bのリユース・プラットフォームを創業した私が、中学時代にパソコンを手にして夢見たことに通底するものがある。
私の当時の話は後述するとして、このあとは、日本の大手ECサイトの動きを少し追ってみよう。
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リユース革命
日本では年間7.6兆円もの不要品が生まれる一方で、取引されるのは2兆円に過ぎない。その結果溜まってしまっているリユース品の累計総額は約37兆円にも上る。それをどう掘り起こすか。日本最大級の買い取り比較サイト「ウリドキ」創業者が明かす世界と日本のリユースのすべて。
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