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特別企画

2014.07.28 公開 ポスト

香山リカ×湯浅誠対談 国論が二分される時代をどう生きるか

第1回
弱者は「無垢で清らか」でないといけないの?香山リカ/湯浅誠


「こんな弱者だったら救ってやってもいい」という理想のイメージ


湯浅 私、こういう話をするとき、よく例に出す話があるんです。
 ホームレスの人や、夫や恋人のDVから逃げてきた女性が、生活保護を受けてアパートに入るとき、敷金支給というのを受けるんですね。そうしないとアパートに入れないから。地域によって違いますが、関東は結構敷金が高くて、敷金、礼金、手数料等、最初に家賃5カ月分ぐらいのまとまったお金が必要になる。
 この敷金支給を受けられる条件が、生活保護手帳に書いてあるんです。「身だしなみが整えられること」「掃除、洗濯ができること」「炊事ができること」とか10項目ぐらい。
私、それを最初に見たときに、「俺、とてもこんなハードルはクリアできないから、もし一度でも住むところを失ったら、二度と今の生活には戻れないな」と思いました。身だしなみとか、最初にアウトでした(笑)。

香山 今は大丈夫?

湯浅 大丈夫、かな?(笑)

香山 きれいにしているから。

湯浅 そう。お風呂にも入るようになったし(笑)。
 でもこの条件って、誰に向けたものかと言えば、生活保護の受給者というよりは、納税者に向けてなんですよね。「これだけ厳しい条件を設定していますよ。だからこれをクリアした人には、あなたの税金使わせてね」ということ。だから生活保護に対するみんなの目が厳しくなれば、ハードルはまだどんどん上がっていくと思います。

香山 そうか。でも単なるエクスキューズとして掲げられてるだけじゃなくて、「この人は真面目に生活している無垢で清らかな人なのに、いろいろ事情があってお金に困っている気の毒な人なんです」という「正しい弱者」イメージに、受給者を合わせようとしているところもあるんじゃない?

湯浅 それはあるでしょうね。そういう人だったら、みんなから「じゃあ、生活保護を受けてもしょうがないな」と言ってもらえるだろうから。
 だから逆に、生活保護をもらって働かないでパチンコしてるみたいな人がテレビで取り上げられると、「一体どういう条件で支給しているんだ」という話になる。たとえ全体の一部であっても、そういうことがあると、いわゆる弱者と言われる人たちへの、世間の見方がより厳しくなって、生活保護の受給条件にも反映されていく。

香山 「こういう弱者なら救ってやってもいい」みたいな、理想のイメージがある。施しの対象は、自分のイメージ通りであってほしいんでしょうね。

湯浅 そうだと思いますよ。生活保護に関してよく聞くのは、「本当に支援が必要な人になら支給してもいいよ」というフレーズです。生活保護制度自体を否定する人はあまりいない。でも、「本当に必要とする人」という言葉の中身は、人によって相当バラツキがある。

香山 かわいそうな善人に施しをするほうが、自分がいい気持ちになれるから、そういう型に当てはめたくなる、ということかな。
 私がちょっと関わっていた障害者プロレスの「ドッグレックス」の選手には、肢体不自由の人が多いんです。彼らは「障害者って心がきれいだよね」とか、「目がキラキラしているね」とか決めつけられることに、もう嫌気がさしているのね。車椅子に乗っていて手足が動かないと小動物みたいでかわいいとか、心が清らかに違いないとか、勝手に思われることに非常に不自由を感じている。
 だから障害者だって実は目立ちたいし、金も欲しいし、女も好きだということを、あえて全面的に押し出そうとしている。たとえば試合の実況をする人が、「この男は生活費をもらってすぐに風俗で全部使ったんですよ」とか、「パチンコ狂いの誰々です」「借金まみれです」とか、そういう露悪的なことをわざと言うんです(笑)。

湯浅 それはプロレスだからギリギリ成り立つ話ですね。

香山 そう。でもショーとしてやっていることであっても、かなり微妙なところではある。抗議はたくさん来ます。

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香山リカ

1960年、札幌市生まれ。東京医科大学卒業。精神科医。立教大学現代心理学部映像身体学科教授。豊富な臨床経験を活かし、現代人の心の問題のほか、政治・社会批評、サブカルチャー批評など幅広いジャンルで活躍する。『ノンママという生き方』(幻冬舎)、『スピリチュアルにハマる人、ハマらない人』『イヌネコにしか心を開けない人たち』『しがみつかない生き方』『世の中の意見が〈私〉と違うとき読む本』『弱者はもう救われないのか』(いずれも幻冬舎新書)など著書多数。

湯浅誠

1969年東京都生まれ。東京大学法学部卒。2008年末の年越し派遣村村長を経て、2009年から足掛け3年間内閣府参与に就任。内閣官房社会的包摂推進室長、震災ボランティア連携室長など。2014年4月法政大学教授に就任。NHK「ハートネットTV」レギュラーコメンテーター、文化放送「大竹まことゴールデンラジオ」レギュラーコメンテーター、朝日新聞紙面審議委員、日本弁護士連合会市民会議委員なども務める。著書に、『ヒーローを待っていても世界は変わらない』(朝日新聞出版)、第8回大佛次郎論壇賞、第14回平和・協同ジャーナリスト基金賞受賞した『反貧困』(岩波新書)『岩盤を穿つ』(文藝春秋)、『貧困についてとことん考えてみた』(茂木健一郎と共著、NHK出版)など多数。

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