隊員達は皆小銃を構えたままアスキラの訴えに聞き入っている。全員が一応は英語教育を受けているが、当然ながら語学力には相当な個人差がある。それでも、必死の面持ちでアスキラが語る内容の大方は理解できたようだった。
新開曹長が吉松隊長の横に進み出て、
「我々の任務は海賊対処行動であり、遭難機の捜索救助です。未承認国家の小氏族とは言え、他国の紛争に介入することは許されていないはずです」
まただ――
友永は新開に対するいつもの反感を覚える。まったくその通りではあるが、あまりに情を欠いた言いざまだ。
隊員達もさすがに顔を見合わせている。
新開の発言は日本語だったが、アスキラ達もその意味を察したらしく、不安に顔色を変える。
だが吉松は冷静な口調ではっきりと明言した。
「安心して下さい。あなた方を避難民として保護します」
三人の顔に安堵の色が広がった。
日頃隊員達から絶大な信頼を寄せられる吉松3尉が、滋味あふれる笑顔を見せて、
「日本では諺にこう言います。窮鳥懐に入れば……」
そう言いかけたとき――
四方から銃声が轟き、隊員二人が鮮血を噴いて倒れた。戸川1士と佐々木1士だ。
女達が悲鳴を上げる。
「車内へ待避!」
吉松の指示を待つまでもなく、恐慌をきたした各員が我先に高機動車や軽装甲機動車に駆け込もうとする。
「こっちだ!」
横殴りに叩きつけられる豪雨のような銃撃の中、友永は無我夢中でアスキラ達を高機動車に誘導する。だがアスキラと一緒に走っていた二人の女性が被弾した。
「ビキタ! ダンジュマ!」
喚きながら引き返そうとするアスキラを無理矢理抱えるようにして、装甲兵員室になっている高機動車の後部スペースに放り込んだ。
無駄だ、もう死んでる――そう言おうとしたがちゃんとした言葉にならなかった。瞬時に乾き切った喉の奥からは、自分でも意味の分からない叫び声が出ただけだった。