俯せに倒れた二人の体がさらなる着弾に引き裂かれるのをまのあたりにしたアスキラは、両手で顔を覆い泣き崩れた。友永は構わず観音開きのハッチを閉める。間一髪だった。閉ざされたハッチを銃弾が乱打する甲高い金属音が車内全体に響き渡った。
幌の掛かった高機動車の後部は、一見ただの荷台のように見えるが、内側に装甲板が施されていて、銃撃にも耐えられるようになっている。運転席部も同様で、一般に使用されている輸送車と同じように見えながら、前面ガラス部分の内側に桟が組み込まれており、防弾ガラスが追加されている。
内部には友永とアスキラの他に、津久田2曹がいた。
猛烈な銃撃に三方の装甲板がけたたましい音を上げる。巨大なドラム缶の中に閉じ込められ、外からバットで乱打されているようだ。途轍もない恐怖と混乱。狂おしい騒音に鼓膜が今にも破れそうだった。
津久田がアスキラよりも大きな悲鳴を上げて頭を抱える。友永は中腰のままで凝固していた。
なんだ――何が起こっているんだ――
痺れ果てた脳髄はまるで動こうとはしなかった。
誰か――誰かこの音を止めてくれ――
もう耐えられない。意識が混濁する。朦朧として感覚を失う。泣き叫ぶアスキラと津久田の声も、際限なく続く打撃音にかき消され、いつの間にか聞こえなくなっていた。
俺は――俺は一体どうなったんだ――
固まった全身に力が入らない。手足が錆びついたようになってまるで動こうともしない。悲鳴を上げずにいられたのは、動転するあまり声さえ失われていたからだ。そうでなければ、津久田と同じく喉が張り裂けるまで悲鳴を上げていただろう。
自分達は攻撃されている――なぜだ、一体誰に――
停止していた頭がほんのわずか動き出した。
襲ってきたのはおそらくワーズデーン小氏族だ。アスキラを狙って。だとしても、一国の部隊をこうも無造作に襲撃するものだろうか。
分からない――だが、このままでは全員が死ぬ――
海賊対処という任務を命じられたときから、いや、そもそも自衛隊に入隊したときから、危険は覚悟していたつもりだった。それでも、問答無用でこれほどまでの攻撃を受けることが実際にあろうとは。自衛隊全体にとっても間違いなく初めての経験だ。
応戦しなくては――待て、自分達が応戦していいのか――許可は、吉松3尉は――
ようやく我に返った友永は運転席に面した小窓から、おびただしい着弾の跡のある防弾フロントガラスを通して外を見た。二台の軽装甲機動車にはMINIMI機関銃が装備されている。あれで応戦すれば――
外の光景に思わず呻き声が漏れた。吉松隊長らが武装した黒人の民兵に取り囲まれている。
音もなく接近した敵は機関銃を搭載した軽装甲機動車をすでに押さえていたのだ。抵抗する間もなく武装解除された隊員達がAK- 47の銃口で小突かれたり台尻で殴られたりしている。
吉松隊長にトカレフを突きつけた民兵の一人が、こちらに気づいて片手で差し招いた。躊躇していると、トカレフを隊長のこめかみに強く押し当てた。走り寄ってきた兵士達が高機動車の運転席に乗り込んでくる。