「料理の鉄人」は空港でも家の中でも「鉄人」だった(田中)
田中 僕はモニターを見て仕事している側、小島さんはモニターの向こうでカメラに映って仕事をしている側ですが、自分がやったことをすぐそのまま再生して見られる仕事として共通してますよね。こういう仕事って、そうはありません。小島さんは「コスプレ」という書き方をされていましたが、僕なりに言うと、それって、「放送しました、自分でも録画して見ましたし、周りからの反響も聞きました、そのうえで即、反省して次はこうやって乗り越えていきます」という仕事のしかたになるんです。そういう意味で、テレビの仕事は特殊だという気はします。
小島 そうですね。
田中 面白かったのは、『料理の鉄人』(フジテレビ)という番組をやっていたとき、番組で鉄人になった道場六三郎さんとか坂井宏行さんとか陳建一さんとか、最初は当然、素人だったわけですが、番組に毎週毎週登場していくと、キャラクターが変わってくるんですよね。まさしく鉄人になっていくんです。そして、スタジオから出てもずっと鉄人でい続けるんです。空港でも鉄人だし、恐らく家の中に入るまで鉄人。棺桶に入っても鉄人なんだろう。そう思うと、テレビっていうのはやっぱりすごい。
小島 そうですね。それは、ある意味、親切心なんでしょうね。視聴者に対して、「あれはテレビ用の……」と説明するより、「鉄人です」と言ったほうがわかりやすい。
田中 あははは。そうそう。
小島 「女子アナって大変なんでしょう?」と聞かれたときに、そうでもないけど、とりあえず「大変ですぅ」って言ったら喜ぶみたいな。相手の見たい自分に相手を寄せていくことで説明を省くのは、宿命です。そうじゃないとわかりづらい。
田中 出るたびに、「このあいだは鉄人だったけど、今日は違う」では、「ブレてる」って言われますからね。
小島 そうなんです。変わらないものでいてほしい。本当は人なんて変わっちゃうし、自分だって変わっちゃう。でも、せめてテレビの中ぐらい、こうだと思った人はずっとこうでいてほしい。テレビは、「せめてここだけは安定していてくれ」という願望が集中する場所なんじゃないかと思うんです。
(構成:小峰敦子 写真:隼田大輔)
※第2回 『「見て見られる」関係から誰も自由になれない』は8月13日掲載予定です。