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70歳、はじめての男独り暮らし

2018.01.25 公開 ポスト

【新春特別企画】70歳、はじめての男同級生対談

70すぎると風呂が怖い<対談後編>西田輝夫(医学博士)

人生100年時代の男の生き方がここにある。古希を迎えた元・大学教授の独り暮らしを描いた、笑えて泣ける珠玉のエッセイ『70歳、はじめての男独り暮らし』刊行を記念し、著者の西田輝夫さんと、50年来のご友人である元・日本郵政株式会社社長、坂篤郎(さか・あつお)さんによる対談が行われました。引退し70歳を迎えたお二人が考える、趣味・家事・死生観…笑いの絶えなかった対談の後編をお送りします。(前編はコチラ

(写真:左/西田輝夫さん、右/坂篤郎さん)

脳がくたびれてきている

 僕ももう70だから。別に僕が生きてないと困る人は、そんなにはいないし、もう子どもも家にいないし、家内は家内でちゃんと生きていけるだろうし。ただ、今は僕は、さっきの話に戻るけど、とてもいい時間を過ごせていますね、おかげさまで。僕はいろいろ趣味があって、例えば昨日も一昨日もゴルフだったんだけど(笑)。あと、7、8年前からやっている習字ね。書道。それと、3年ぐらい前から陶芸を始めた。カップなんかを作ったり。これは全然下手くそだけど面白いですよ。

西田 あぁ、僕も陶芸をしたいんだ。だって萩焼の土地(編集部注:西田先生は山口県在住)だし。

 あの辺りは盛んだからね。

西田 親しい人が何人かやっててね。「先生、そこに積んである土を好きなだけ持っていって、やれよ」と言って譲ってくれるんだけど。

 ぜひやった方がいいよ。で、そういうわけで、仕事はほどほど、遊ぶのたくさんみたいな感じだから、おかげさまで今のところ、あまり体もどこも悪くなくて。

 ただやはりちょっと年を取ったなと思うのは、いま補聴器を付けているんだけど、耳鼻科に行って見てもらったら、「これは典型的な加齢性難聴です」と。「70歳ぐらいの方だと、こういう人はたくさんいらっしゃいます。坂さんはちょっと早めかもしれません。病気ではありませんから、治療法はありません」と言われて(笑)。なるほど、そういうものかと思って。老眼と本質的には同じことかな。

西田 本当はね。白内障もね。

 こういう対談とかは聞きとれるけど、例えば、社外取締役で出席する取締役会で小さい声の人だとよく分からないこともあって、分からないのに「はい、分かりました」と言ってはいけないし(笑)。なので、そういうときのために買ったの。ただ、「常時付けていたほうがいいです」って言われて。

西田 脳を刺激するのかな?

 そう。脳を訓練するというのは、補聴器を付けた音を聞いて、それに合わせて脳がいろいろな判断をする、そういう訓練が必要だから「なるべく付けていてください。普通に、大丈夫なときでも」とお医者さんに言われてね。だから今日は別に必要ないけど付けています。

西田 人工内耳なんか「音入れ」と言うね。マイクロフォンがあって、スピーカーで音を大きくしているのが補聴器だと思うけど、それだと雑音も全部拾うから、それはカットしないといけないでしょう。で、手術で人口内耳を作る。そうしたら、その機械の音が入るんだね。それで「あー」と言って、入ったら、脳に「今の音を『あ』というんですよ」と言って、その人の若いとき覚えた「あ」とその音を、脳の中でひっ付けさせるわけ。次は「『い』といったらこうですよ」と。そういう訓練をしたら、普通に聴こえるようになる。

 やっぱり脳をある程度鍛えないといけない。脳もくたびれているわけだから(笑)。そういう意味でも陶芸と書道はおすすめですね。両方とも一人でもできるけど、大体は書道も仲間とやるし、先生に教わりに行くでしょ。

 たまたま、とてもいい先生がおられて。もう80ぐらいの大家なんですけど。筆の持ち方から教えてもらって。一番最初に教わったのは、「やや大きめの字は、坂さん、手で書くのではなくて体で書くんです」と。「額(ひたい)と、筆を持っている手、この距離をあまり変えないで。線を引くときにはこういうふうに体で動かすんです」と。そのほうが確かに真っすぐきれいに引ける。

西田 書道なんていうのは、手と脳とのアソシエーションが必要になるからね。

坂 しかも、字を書くとか、ろくろを回しているときはそれに集中していますよね。一生懸命になっている。しかも、仕事に一生懸命になっているのと違って、後腐れがない(笑)。くよくよ頭を悩ますとか、そういうことはないわけですよ。別にそれで食べているわけじゃないから。そのときはすごく一生懸命やっているけど、終わっちゃえば、ほっという感じで。

 特に、写経は集中と解放がはっきりしています。例えば般若心経という有名なお経を1枚書くのに1時間半程かかる。途中で別のことを考えると1字飛ばしちゃったり字が乱れたりする。だからかなり集中して書いていないといけない。で、1時間半ぐらい集中していると、それなりにくたびれるでしょ。そのあとでビールを飲む。これがとてもおいしい(笑)書家とか陶芸家は長生きの人が多いよね。たぶん、脳とかそういうのの健康にいいんじゃないんかな。

西田 そうか、僕、行こうかな。来い来い、ずっと言われてるんで(笑)。

関連書籍

西田輝夫『70歳、はじめての男独り暮らし おまけ人生も、また楽し』

定年後、癌で逝った妻。 淋しい、そして何ひとつできない家事……。 人生100年時代の、男の生き方がここにある。 抱腹絶倒、もらい泣き!? 「このまま私はボケるのか?」定年後の独り暮らしを描く、笑えて泣ける珠玉のエッセイ! 古希(70歳)を迎えた元大学教授が、愛妻を癌で亡くした。悲しみを癒す間もないままひとりぼっちの生活が始まるが、料理も洗濯も掃除も、すべてが初めてで悪戦苦闘。さらに孤独にも苦しめられるが、男はめげずに生き抜く方法を懸命に探す。「格好よく、愉しく生きるのよ」妻の遺言を胸に抱いて――。 <目次> はじめに 第一章 家事に殺される!? 〜オトコ、はじめての家事〜 第二章 男やもめが生きぬくための7つのルール 第三章 妻を亡くして 〜オトコ心の変化〜 第四章 妻がくれたもの 〜大きな不幸の先に大きな幸せが待つ〜 おわりに

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70歳、はじめての男独り暮らし

定年後、癌で妻を亡くした元・大学教授が語る、人生100年時代の男の生き方。

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西田輝夫 医学博士

1947年生まれ、大阪府出身。1971年大阪大学医学部卒業後、米国ボストンのスケペンス眼科研究所留学などを経て、1993年、山口大学医学部眼科学教室教授に就任。2001年米国角膜学会にて、日本人としては19年ぶり2人目となるカストロヴィエホ・メダル受賞する。2010年からは山口大学理事・副学長を務めた。2013年に退任後、旅行をゆっくりと楽しもうとした矢先、長年連れ添った妻が子宮頸がんのため帰らぬ人となる。現在は、医療法人松井医仁会大島眼科病院監事、(公財)日本アイバンク協会常務理事などを務めながら、妻が最後の数か月で教えてくれた家事技術をもとに、懸命に独り暮らしの日々を送っている。

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