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70歳、はじめての男独り暮らし

2018.01.25 公開 ポスト

【新春特別企画】70歳、はじめての男同級生対談

70すぎると風呂が怖い<対談後編>西田輝夫(医学博士)

70すぎると風呂が怖い

西田 さっき坂さんに文章を褒めていただいたけど、これがね、坂さんなんかは根っからの、生粋の江戸っ子なわけよ。僕は逆にいえば、生粋の大阪っ子なのよ。最近、本当に思ってきたんだけど、大阪の人間というのは、何かオチをつけないと、何か笑かさないと、と。

 ははあ、そういうサービス精神がちゃんとあるから、なんでも面白くやるんだな。

西田 サービス精神というより、自然とすることができるのよ。

 なるほどね。

西田 本には書かなかったけどこの間、頭のここを打って。何針も縫ったんだよね。それでCT撮ってね、骨と脳の中を撮って。それで、脳外の先生、女の先生だけど、頭をおさえながら「ご覧ください、骨は折れていません、脳内の出血もありませんから、先生はここだけ、脳の外だけの怪我ですから、安心です」と言って。そこでね、「あ、そうですか」って言うのがたぶん、江戸っ子なのよ。

 僕はね、「IQ落ちていません?」って聞いた。そうしたら、もう凄いベテランの女の先生なんだけど、まじめな人なんだよ、ものすごい怖い顔して「この検査では、そういうものは分かりません!」って怒られた。山口の人なんだけど、山口はまじめなんだ(笑)。

 こんな大変なときに、冗談を言うなと。

西田 本人も血まみれで。これから、縫おうかというときに、「先生、IQは落ちとらんでしょうか」。

 それ、すごいな…。

西田 いや、だから、そうなの。本当に、吉本新喜劇の世界でね、それを言ったらうけるだろうとか、そんなことは考えていない。本当に血が出てひいひい言っているんだけど、でも自然と、パッと出るわけよ。

 言われたほうは、たまったもんじゃないな(笑)。

西田 そう。

 それ原因って、さっき言ってたアンプでしょ?

西田 そう。息子がアンプ買う金ないよって言うから、じゃあ、おれの真空管のでよければ、あれは一応名機と言われているから、送ってやるからって。そうしたら、僕のシステムは当然、音が出なくなるわけよ。だから、書斎の方に別のアンプがあるから、それをこちらに持ってきたら、また音が出ると思って、運ぼうとしたら…

 階段降りてから、よろめいて。

西田 しかも、5、6年前に、ヨドバシカメラかなんかで買って、宅急便で送ってくるでしょ、それを自分で封切って、誰にも助け借りないで、それを持って2階へ自分で上がって、それで配線して、音出したでしょ。5、6年前の俺はそれをしたじゃないかと。それが、なんで、ここで、こんなことになるんだ、と。これが体力がなくなっているということなんだろうな。周りの人間には叱られるしね。「そのためにうちの若いの、先生、使ってくれたらいいのに、なんで、水くさい」とか言われるし。

 僕も5年前とだと、ゴルフでいうと、15%ぐらいは飛ばなくなっていますよね、距離が。やはり65歳から70歳の5年間って相当大きいですよ。

西田 僕、もう一切ゴルフしないんだけれども、それはおやじの言葉が残っていて、大阪のあるゴルフ場で、馬の背のフェアウエーがあってね、直角にこう打つわけだけど、距離が出れば残り50ヤードまでいくけど、距離出なかったら、もう谷底にいくんですよ。それが、おやじが70過ぎたくらいかな、ゴルフを突然やめたから、なんでか聞いたら、「その谷が越えられなくなって、いつもプレーイング4になる」と。「そんなばかなことあるか、わしゃもう辞めた」と言って。

 いや、あるでしょ、やっぱり。僕は長年、役人とか会社の社長とかやったでしょ。そうすると、足が弱るんですよね。忙しいから運転手さんにいつも運んでもらっているわけですよ、車で。車に乗っているときも、電話したり書類読んだり、仕事をしているわけですよ忙しいから。それで夜も、会食するところに「着きましたよ」とか言われても、「おお、どこだっけ、ここ」なんていう感じになる。

 辞めてから、66歳から以降、極力、歩くようにしていて、だから今でも、歩いて2日間続けてゴルフは一応できますよ。ただ、4年前は、それで別に大丈夫だったけど、最近は2日続けてゴルフをすると、2日目の後半はスコアがとっても見られないね(笑)。やはり、着実に体力は落ちてっている。少しずつ衰えているんです。

西田 衰えるよね。

 相当よく足を使っているほうだと思いますけどね。

西田 それは、東京という町のせいもあるな。僕も東京へ来たら、1万歩くらい歩いているけど、田舎は歩かないから。

 そうですね。

西田 車ばっかりなの。というか、バスも地下鉄もないわけよ。もう自分の車で移動するしかない。東京へ来たら、基本的に全部、電車とか、公共交通機関で移動できるでしょ。それで東京の地下鉄は、ものすごく親切だから(笑)、上がったり下がったりしながら歩かないといけないでしょ。

 結構、歩きますよね。いちいち車の置き場所ないしね。

西田 そう。

 運転手さんがいなくなって、そういう意味では、足にはよかったような気がする。健康にはいいような気がしますね。それで、ゴルフやるでしょ、知り合いに糖尿病の専門家がいるけど、彼がこの前、やはり歩くのがいいと言っていましたね、健康には。

西田 今、体力がないという言葉で片付けているけどね、僕ら70過ぎての体力がないというのは、筋力がないのもあるけれども、反射神経がなくなる。だから、体力って一言でいえば体力なんだけれども、反射神経。おっとと思ったときに、若いときはパッと反応して、さっと立って。それが、その反射神経がなくなって、おっとっとっ、ドーンとなった。

 いや、だから、ちょっと片足上げるなんていうときは、何かにつかまっていれば大丈夫なんだけど。

西田 もう、こうしているだけでいいんよ。つかまって、こう持たなくても、こういう安定したところに。

坂 ちょっと支えているだけでいい。

西田 お風呂が怖いよね。風呂でせっけん使うでしょ。シャワーでせっけん使うでしょ。終わったら、まずシャワーで床を流して、せっけんを全部洗い流してから何か次の行動をとらないと、ちょっと残っていて、油断して、ふっと足を運んだら、ずるっといきますね。

関連書籍

西田輝夫『70歳、はじめての男独り暮らし おまけ人生も、また楽し』

定年後、癌で逝った妻。 淋しい、そして何ひとつできない家事……。 人生100年時代の、男の生き方がここにある。 抱腹絶倒、もらい泣き!? 「このまま私はボケるのか?」定年後の独り暮らしを描く、笑えて泣ける珠玉のエッセイ! 古希(70歳)を迎えた元大学教授が、愛妻を癌で亡くした。悲しみを癒す間もないままひとりぼっちの生活が始まるが、料理も洗濯も掃除も、すべてが初めてで悪戦苦闘。さらに孤独にも苦しめられるが、男はめげずに生き抜く方法を懸命に探す。「格好よく、愉しく生きるのよ」妻の遺言を胸に抱いて――。 <目次> はじめに 第一章 家事に殺される!? 〜オトコ、はじめての家事〜 第二章 男やもめが生きぬくための7つのルール 第三章 妻を亡くして 〜オトコ心の変化〜 第四章 妻がくれたもの 〜大きな不幸の先に大きな幸せが待つ〜 おわりに

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70歳、はじめての男独り暮らし

定年後、癌で妻を亡くした元・大学教授が語る、人生100年時代の男の生き方。

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西田輝夫 医学博士

1947年生まれ、大阪府出身。1971年大阪大学医学部卒業後、米国ボストンのスケペンス眼科研究所留学などを経て、1993年、山口大学医学部眼科学教室教授に就任。2001年米国角膜学会にて、日本人としては19年ぶり2人目となるカストロヴィエホ・メダル受賞する。2010年からは山口大学理事・副学長を務めた。2013年に退任後、旅行をゆっくりと楽しもうとした矢先、長年連れ添った妻が子宮頸がんのため帰らぬ人となる。現在は、医療法人松井医仁会大島眼科病院監事、(公財)日本アイバンク協会常務理事などを務めながら、妻が最後の数か月で教えてくれた家事技術をもとに、懸命に独り暮らしの日々を送っている。

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