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70歳、はじめての男独り暮らし

2018.01.25 公開 ポスト

【新春特別企画】70歳、はじめての男同級生対談

70すぎると風呂が怖い<対談後編>西田輝夫(医学博士)

パスワードは控えておこう

 この本を読んでね、いろんな面で感心した。さっき申し上げたように、素晴らしい奥さまだなというのと、それから西田さんも、書いてあることが、いちいちなるほどと思ってね。抗うんじゃなくて、老いを受け入れて一緒に生きている。確かにそうだなと。僕も70だから、なんとなくそういうのはよく分かる。若いときには分かんないかもしれないけどね、こういうのって。年を取ってくるとね。

 それから、「ワクワク感を持って」というのもすごく腑に落ちた。さっき申し上げた、例えば陶芸なんていうのは、たまにうまくできる。とってもうまくできるんですよ。大体はうまくできないけど。でも別にそれで食べてるわけじゃないから、そんなに落ち込む必要はないわけですよ。だけど、たまにできるとね、とっても嬉しいんですね。それで上手くできたやつを、ご飯茶わんとかで、うちで使っているんですけど、そのご飯はとてもおいしいですね。

西田 そうだね、楽しむのは大切だね。

 あと「火の不始末」というのもなるほどな、と思った。僕ね、妻によく「また電気つけっぱなしよ、あなた」と言われるわけ。それが一人で暮らしているとなったら、電気つけっぱなしとかになるし、火だったらもっと危ないよね。あれは確かに相当深刻な問題だから、もっと真剣にちゃんと考えないと。

西田 それで自分もボケてくるでしょ。だから、消したつもりというのがある。うちは幸いIHだから直火はないけど、でも、このごろはね、漏電が怖い、古くなってきたら。だから、IHなんかでもスイッチ切って、それで、今日みたいに出かけるときは、もう一つ横にある元のスイッチも切ってくるんですよ。

 なるほど。

西田 コンロだけのスイッチを切るだけでは不安でね。とにかく、留守中に何か起こるというのが怖い

 ちゃんと「入院用かばん」も作っておかなくちゃいけないとか。それからね、僕のうちは妻も僕もそれぞれ収入があるから、口座とか、全部別なんですよ。お互いに中身は知らないわけ。妻は「あなた、これだからね」「ここに入ってますからね」とか一応言うんだけど、僕はすぐ忘れちゃうわけね。僕のも、妻はちゃんと全部は知らないと思う。そういうのも、メモして残して渡しておかなくちゃ、と。言われてみれば、そういうことをちゃんとやってないなぁと思って…。

西田 あとね、すぐにしておかないといけないのは、パソコン。パソコンでね、妻が僕宛てに手紙を書いていたんですよ。で、彼女は、そんなテクニックを知らないはずだからたぶん間違ってやったんだろうけど、ファイルにあれを入れたんだよねあれ……そう、パスワード。それを残してないんですよ。そのファイル名を見たら、これは絶対開けたいというファイル名なんだよ。だから、妻が思い付きそうなのを、次から次へと入れた。そうしたらやっと見つかった。坂さんも奥さんの専用のパソコンあるでしょ?

 僕の妻はね、パソコンは使わないですね。

西田 でも逆に、坂さんの、あるでしょ。

 僕のはある。でもパスワードなんて入れてない。

西田 ファイルには入れてないけど、本体にはあるでしょ。

 ああ…うん、本体にはあるな。

西田 プログラムによったら、あるんですよね。要求してくるんですよ何か。それをね、控えておかないとね、キャンセルするにもキャンセルできないんですよ。それに僕の妻は出かけるのが面倒くさいから、インターネット何とかっていうやつで、色々とものを買っていた。そうしたら、もうパスワードやら番号やらたくさん。一応それ、ノートに残してくれてたんで、それを見ては入れて、という。

 ちょっとした買い物とかインターネットって、全部パスワードがいりますからね。ああいうのもちゃんと教えておかないと、というか残しておかないと確かに困るね。

西田 パソコンのパスワードというのはね、盲点だよ。銀行なんかはまだね、そこの担当者を呼んで「間違いなく坂さんだ」ということが分かれば開けてくれるけど。楽天だの何だの、パソコンだけでやってるのは、もうお手上げ

 会わないからね。電話で話したこともないし。そう、奥さんの携帯電話の解約も大変だったって書いてあったけど?

西田 いや、それこそ書類いっぱいいりますよ。まずね、住民票の死亡(除票)というのを持って行かなきゃいけない。次に除籍。で、戸籍を持っていくんだけど、その戸籍に僕の名前が出ていないといけないんだよ。解約しに来た人間が、この持ち主との関係がどうかを確認する。今度は、来た人間が僕であることを証明する、免許証とかがいる。それを全部揃えないと解約してくれないんです。

 なるほどなぁ。あとクレジットカード。何かヨーロッパで使われてたよね。

西田 そう、40万円近く。もうずっと使ってないから0で通知だけ来てたでしょ。年に1回会費だけ、妻が死んでからも。そうしたらある日、突然、38万かな。え、何だこれは、と思って見たら「Air France, Finland」。それで連絡したんだけど、これもすごく面倒。ものすごい審査がいるの。最初の女の子なんてめっちゃめちゃ意地悪で。

 受付の?

西田 うん。「死んだ人間が使うわけないやろ」と言ったら「いや、ご主人さんがヨーロッパの通信販売とかされたのといますか」とね。

 疑ってかかっているんだ。

西田 そう言われたら可能だけど…と。でも逆にね、Air Franceだったから、たぶんチケットなんだよね、だからまだよかった。被害受け付けてもらえたけど、あれが普通の買い物とかだったら「あなた、買ったんでしょ」と言われたら、払わざるを得なかったかも分からない。だから、携帯電話もクレジットカードも、もう感情抜きで解約しなきゃと思った。

 その状況になってみないと分からないね。

関連書籍

西田輝夫『70歳、はじめての男独り暮らし おまけ人生も、また楽し』

定年後、癌で逝った妻。 淋しい、そして何ひとつできない家事……。 人生100年時代の、男の生き方がここにある。 抱腹絶倒、もらい泣き!? 「このまま私はボケるのか?」定年後の独り暮らしを描く、笑えて泣ける珠玉のエッセイ! 古希(70歳)を迎えた元大学教授が、愛妻を癌で亡くした。悲しみを癒す間もないままひとりぼっちの生活が始まるが、料理も洗濯も掃除も、すべてが初めてで悪戦苦闘。さらに孤独にも苦しめられるが、男はめげずに生き抜く方法を懸命に探す。「格好よく、愉しく生きるのよ」妻の遺言を胸に抱いて――。 <目次> はじめに 第一章 家事に殺される!? 〜オトコ、はじめての家事〜 第二章 男やもめが生きぬくための7つのルール 第三章 妻を亡くして 〜オトコ心の変化〜 第四章 妻がくれたもの 〜大きな不幸の先に大きな幸せが待つ〜 おわりに

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70歳、はじめての男独り暮らし

定年後、癌で妻を亡くした元・大学教授が語る、人生100年時代の男の生き方。

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西田輝夫 医学博士

1947年生まれ、大阪府出身。1971年大阪大学医学部卒業後、米国ボストンのスケペンス眼科研究所留学などを経て、1993年、山口大学医学部眼科学教室教授に就任。2001年米国角膜学会にて、日本人としては19年ぶり2人目となるカストロヴィエホ・メダル受賞する。2010年からは山口大学理事・副学長を務めた。2013年に退任後、旅行をゆっくりと楽しもうとした矢先、長年連れ添った妻が子宮頸がんのため帰らぬ人となる。現在は、医療法人松井医仁会大島眼科病院監事、(公財)日本アイバンク協会常務理事などを務めながら、妻が最後の数か月で教えてくれた家事技術をもとに、懸命に独り暮らしの日々を送っている。

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