「信用できるか」が人生のつながりの基本
坂 日本のお医者さんは、そんなにお金持ちじゃないですよね。昔は、開業している人なんかは、40年ぐらい前は、とても豊かな人がいたけど、最近の開業医はそんなに多額の収入があるというわけでもないですからね。
西田 税理士と話していたら「先生、そんな開業医儲かっていませんよ」って言ってた。でも、国民は、医療費の40兆は全部、医者が持っていってると思っているわけだけど、実際は違うね。
坂 あれはね、小さい病院でも、CTとか、すごく高価な装置があって、しかも稼働率が低いんですよね。ああいうのは、大きい病院だけにして、小さいお医者さんとか病院は、そこに委託して、検査してもらって、というふうにやった方が。要するに、機械って稼働率が高ければ、1人当たりのコストは下がるわけですよ。これが、稼働率が低いと、ものすごく高いものについちゃうわけですよね。何億円もするんだから。
西田 だから、アメリカなんか、僕がいた頃は80年頃だけれども、municipal hospitalか、シティーの、パブリックの病院、そういうところにレントゲンですら、そこにだけある。ケガするでしょ、それで、いつもの小児科に行ったら、病院へ行って、レントゲン撮ってもらってこいと。そこから、昔は郵便だけど、郵便で自分の主治医のところに写真が来ていて。だから、開業医というのは、クリニックとかそんな言い方しないで、全部オフィスという言い方です。こう話しながら、簡単な基本的な診察だけしてね。でも、日本の保険制度っていうのは、検査でもうかるようになっているから。
坂 あれがいけないんだなと思うね。で、すごく高い機械を稼働率低くやっているわけね。そうすると、コストがどんどん上がって、みんな赤字ってなっちゃうわけ。
西田 しかも、機械があるとね、めちゃめちゃ楽なんだよ。だから、あれは医療の質をものすごく低下させているんです。それがちょうど、1000万とか2000万ぐらいの、開業医が買えるぐらいの機械なんだよ。それで、点数が高いでしょ。メーカーが、がんがん売るでしょ。そうすると、みんな買って。それで、点数だけ上がっていくよね。だから内科でも、この頃、服脱がさないもんね。
坂 ああ、そう。
西田 聴診したり、打診したりするのが、内科の基本だと思うんだけど、今もう全部、診察前に採血して、レントゲン撮ってとか、先生はこの画面を見て…この間ちょっと、また僕は大阪人だからね、冗談で「先生、眼科の僕でも内科の先生はできますね」って。もう全部、検査成績のところに異常値にHとか、Lとか、書いてあるんだから答えが。
坂 免許上はないんでしょ、制限は。
西田 医師免許持っていれば、何科してもいい。アメリカなんか専門医が診ると、5割増しとかチャージできるけど、日本の場合は、そうしますって言いながら、結局、同じ値段でしょ。肌を触ったり、音を聞いたり、いろんなことをして、「ところで嫁に行った娘は元気か」とか、そういう会話を通じて、基本の医療があるわけで。これはもう例えばAIとかが、よほど先、何百年先にできるかもしらんけど、今はとてもじゃないけどできないことだと。
坂 この本にも書いてあるけれど「患者は白髪を信用する」という。
西田 例えば、僕が坂さんを診察するでしょ。そうしたら、若い時に流行っていた歌も一緒なんだよね。ミシェルとか言ったら、1970年代のあれをパッと思い出すわけよ。ところが、若い人にミシェルがね、とか言っても、ぴんとこないよ。だから、患者さんと一緒のときを歩んだ、人生をともに過ごした年月が長い医者ほど、患者さんは安心感があるよね、その医者に対して。
坂 まあそうですね。僕も内科の、血圧と痛風は毎月1回行くんだけど、僕の同級生です。
西田 万が一、手術が必要といったときに、信頼している先生が紹介してくれたら、それでもう信用するんよね。僕でも同級生に電話して、うん、お前、あそこ、あいついいぞ、って言ったら、もうそこで切ってもらうわという感じになるよね。
坂 そういうネットワークですよね。そういうネットワークのあるちゃんとしたお医者さんを1人知っているといい。
西田 医者もそうだし、いろんな仕事もそうだし、ビジネスもそうだし、結局、そういうAIで計算できない、信用できるかどうかというファクターよね。そこが、もうほとんど、人生のつながりの基本と違うかな。
だから、坂さんと僕の関係でも50年続いている理由というのは、ある意味で、ベースのところで信頼できるというか、信用できるというところがあって。だから、もう毎週や毎月のように、会ってべたべたしていなくても、何か用事があれば、おたがいに助けようということがあるからだよね。僕ら、20歳ぐらいのときからの付き合いだけど、でもそんなしょっちゅう、例えば月に1回銀座で一緒に飲んでいるとか、そんな付き合いは一切ないよね。この50年ね。
坂 離れているからね。
西田 何か用事あるというときに「坂くん」と電話して。本当、何年に一回でしょ。その何年に一回の今回、対談どうかと電話をしたら「ああ、いいですよ」と言ってくれて。お忙しいけど、二つ返事で来てくれた。そういう人間関係も一つの感謝だよね。毎月のように付き合っておかないと維持できない人間関係もあれば、こういう人間関係もある。まあ、僕から言えば甘えなんだけど、ありがたいですね。
坂 随分長い付き合いなんだ。50年になるね。若いときからの付き合いっていうのは、そういう意味じゃ、やはり安心できるというのがありますね。
西田 あ、そろそろ時間ですか? いや、今日は楽しかった。ありがとうございました。
坂 こちらこそ。ありがとうございました。
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1時間の予定が3時間超に及んだ新春特別対談、いかがでしたでしょうか。老いるとはどういうことか。楽しく最期まで生きるために、わたしたちは何を大事にしていけばよいのか。お二人の対談はその一端を教えてくれたように思います。西田輝夫先生の『70歳、はじめての男独り暮らし』には、毎日、全国から数多くの感動のお手紙が届いています。ぜひ、ご一読いただければ幸いです。